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Taiko Audio Olympus Music Server:デジタル純度の記念碑

Taiko Audio Olympus Music Server:デジタル純度の記念碑

July 22, 2025
Taiko Audio
Olympus Music Server
デジタルプレーヤー
taikoaudio-olympus

第1章:デジタルオーディオの新たな哲学

序論

オランダのTaiko Audioが発表したOlympusミュージックサーバーは、単なる製品のアップグレードではない。それは、デジタルソースのあり方を根本から問い直し、再定義しようとする野心的な試みの集大成である。すでに高い評価を確立している同社のフラッグシップモデル、Extremeサーバーの上位に位置づけられるOlympusは、その設計思想、物理的構造、そして価格のいずれにおいても、現代ハイエンドオーディオの頂点を極める存在だ 1

Taiko Audio自身が語るように、Olympusが提供するのは、従来のオーディオファイル的な語彙、例えばサウンドステージ、ダイナミクス、音色といった言葉では表現しきれない「全く異なる音楽体験」である 4。その目標は、録音エンジニアが意図した、あるいは意図しなかったパフォーマンスそのものに、限りなく近づくことにある。

「減算的」思想

Olympusの設計を貫く核心的な哲学は、「付加」ではなく「削減」にある 7

これは、リスナーと音楽データの間に介在するあらゆるノイズや歪みの源泉を、それが電気的なものであれ、機械的なものであれ、時間的なものであれ、徹底的に排除するという思想である。この哲学に基づけば、いかなる中間処理や変換も、たとえ微細なものであっても、望ましくない音の痕跡を残すことになる 1。Taiko Audioが目指すのは、AC電源に由来するノイズ、内部コンポーネントが発生させる電気的・機械的振動、ソフトウェアの不要なプロセス、データ転送プロトコルのオーバーヘッドといった、音質を劣化させる可能性のある要素を一つずつ、執拗なまでに取り除いていくことだ 2。その結果として現れるサウンドは、「デジタル的」でも「アナログ的」でもなく、ただひたすらに透明な、録音物そのものへの窓となる 1

Olympusエコシステムと投資

Olympusは単一のコンポーネントではなく、モジュール式の拡張性を備えたエコシステムである。その価格体系は、この製品が「サミットファイ」と呼ばれるカテゴリーに属することを明確に示している。

表1: 構成と価格 (MSRP、付加価値税抜き)

構成価格含まれるもの/備考
Taiko Audio Olympus Server XDMI$95,000XDMI出力、DAC出力、USB出力、SFP+ネットワークカード、3.84TBストレージ、フライトケース
Taiko Audio Olympus I/O XDMI (Olympusへの追加)$32,000インターフェースカード、QSFP-DD相互接続ケーブル、2台目のフライトケース
Olympus I/O XDMI (Extremeへの追加)$53,000既存のExtremeサーバーをアップグレード

この価格設定は、後述する技術的な詳細や音質評価を、その市場における現実的な位置づけの中で理解するための重要な文脈となる。

哲学が導く設計の統一性

Taikoの「減算的」哲学は、単なるマーケティング上の言葉ではない。それは、巨大な筐体からバッテリー電源、そして物議を醸すXDMIインターフェースに至るまで、すべての主要な設計判断を説明する根本的な技術指令である。この哲学は、一見すると直感に反する「解像度のパラドックス」という現象さえも、力強く説明する。

その論理を紐解いてみよう。まず、Olympusの設計要素を観察すると、一貫したパターンが見えてくる。巨大な筐体は機械的振動とRFI/EMIを「削減」する 7。バッテリー電源はAC電源ノイズとグランドループを「削減」する 8。徹底的に軽量化されたOSは、ソフトウェア処理に起因するノイズを「削減」する 12。そしてXDMIインターフェースは、プロトコル変換のオーバーヘッドを「削減」する 8。これらすべてが「減算的」アプローチであることは明白だ。

この哲学が絶対的なものであるならば、いかなる「付加的」なプロセスも音質を劣化させるはずである。この仮説を検証するのが、ユーザーレビューで報告されている「解像度のパラドックス」だ 11。レビューによれば、より多くのCPU処理能力を必要とする高解像度再生やアップサンプリングが、時に音質を「崩壊させる」という。この処理は、紛れもなく「付加的」なステップであり、消費電力の増大、ひいては電気的ノイズの増大を招く 12

結論として、このパラドックスは欠陥ではなく、むしろ「減算的」哲学の究極的な正当性を証明するものである。Olympusはあまりにも透明性が高いため、それ自体の内部処理から発生するノイズフロアまでも露呈させてしまう。それは、性能の劣るコンポーネントが持つ、より高い固有のノイズフロアによってマスキングされてしまうレベルのノイズである。この事実は、議論の焦点を「どの解像度が最高か?」から「どの再生方法が最も処理ノイズを発生させないか?」へと転換させる。Olympusは、我々がこれまでデジタルオーディオの「改善」と考えてきた行為(例えばアップサンプリング)が、実はノイズを「付加」する行為でもあったという、不都合な真実を突きつけるのである。

第2章:ソリッドブロックからのエンジニアリング:物理的・機械的完全性

記念碑的な筐体

Olympusの物理的な存在感は圧倒的である。メインシャーシは、重量72kgの航空機グレードのアルミニウムインゴットからCNC(コンピュータ数値制御)によって削り出される 7。これは単なる見た目のための贅沢ではない。この巨大な質量は、振動を吸収・減衰させるための不活性なプラットフォームとして機能し、同時に外部からのRFI(無線周波数干渉)やEMI(電磁干渉)に対する強固なシールドとなる。

戦略的な材料科学

振動と共振の制御には、単一の素材ではなく、複数の素材を組み合わせるアプローチが採用されている。筐体は銅とアルミニウムのハイブリッド構造を特徴とする 14。銅は、内部の各モジュールをシールドし、ヒートシンクとして熱を効率的に逃がすために、惜しみなく使用されている 12。さらに、戦略的なポイントには「Panzerholz(パンツァーホルツ)」と呼ばれる特殊な樹脂含浸合板が配置されている。これは、優れたダンピング特性を持ち、良性の振動スペクトルを提供することで知られる素材である 10

対流冷却と熱管理

Olympusは、ノイズ源となる冷却ファンを一切使用しない、完全なパッシブ冷却システムを採用している。プロセッサが発生する熱は、銅製のパイプを循環する冷却液と筐体によって効率的に大気中に放散される 12。この設計により、動作中は完全に無音となる。筐体は周囲の自由な空気の流れを前提として設計されているため、密閉されたラックやカーペットの上での使用は避けるべきである 16。適切な熱管理は性能維持に不可欠であり、CPUの動作温度は環境と負荷に応じて摂氏35度から50度の範囲に保たれる 17

2ボックスソリューション:Olympus I/O

究極の性能を追求する上で、オプションのOlympus I/Oシャーシは重要な役割を果たす。これは単なるアドオンではなく、設計哲学の究極的な表現形である。その主な目的は、最もノイズの多いコンポーネント(ネットワークカード)と、最も繊細なコンポーネント(オーディオ出力カード)を、メインのサーバーシャーシから物理的に分離することにある 8

この分離により、これらの重要なカードに対して、より優れた電気的アイソレーション、熱管理、そして振動制御が提供される 18。サーバーとI/Oユニットの接続には、標準的なケーブルではなく、性能をさらに向上させるために設計された独自のQSFP-DD(Quad Small Form-factor Pluggable Double Density)相互接続システムが使用される 12

重量はメッセージである

Olympusサーバー単体で60kg、I/Oユニットと合わせると総重量100kgにも達するその質量は、「減算的」哲学の物理的な顕れである。一部の批評家はこれを「高価格を正当化するための過剰仕様」と見るかもしれない 15。しかし、そのエンジニアリングの論理を追うと、この質量は、システムの他のすべての性能が構築される土台となる、機械的・電気的に静かな基盤を作り出すための、譲れない要件であることがわかる。

その根拠は、Taiko Audio自身が筐体設計と性能目標を明確に結びつけている点にある。振動制御とRFI/EMIシールドがその主目的である 10。前モデルExtremeの天板に施された6,000個の穴は、放射ノイズを81dB(約1万分の1)減衰させる「導波管」として設計されており 10、これはOlympusでも引き続き採用されている。極限のオーディオの世界では、機械的な共振や、空気伝播および構造伝播の振動は、ディテールを覆い隠し、音像を不明瞭にする微細な歪みの重大な原因と見なされている。巨大で不活性、かつ適切にダンピングされた筐体は、これらのノイズに対する第一の防衛線なのである。

したがって、この重量は恣意的な選択ではなく、「妥協なき」アプローチの直接的な帰結である。望まれるレベルの機械的・電気的静寂を達成するためには、72kgのアルミニウムインゴットから始めることが必要と判断されたのだ。重量は機能ではなく、環境ノイズを「削減」するという主要な設計目標から導き出された結果なのである。

第3章:パワーとデータ:ゼロからの再発明

3.1 バッテリー電源供給(BPS):静寂の基盤

Olympusプラットフォームの心臓部には、複数かつ独立したバッテリー電源供給(BPS)システムが存在する 2。サーバー本体には2つのBPS、1つのリニア電源、そして2つの充電用電源が内蔵されている 2。さらにOlympus I/Oユニットを追加すると、ネットワークカード用とオーディオ出力カード用に、それぞれ専用のBPSが2つ追加される 2。この徹底した分離は、コンポーネント間の相互干渉を根絶するためのものである。

採用されているバッテリーは、一般的なものではない。特殊なリチウムチタン酸化物(LTO)系の化学構造を持ち、安全性、30年以上の長寿命、そして極めて低い出力インピーダンスを特徴とする 8。この低いインピーダンスにより、最大2,000Aという、既存の電源を圧倒的に凌駕する巨大なピーク電流を瞬時に供給することが可能となり、比類なきダイナミクスを実現する 8

システム全体では、高速なGaN(窒化ガリウム)FETベースの電源回路が採用され、バッファリングには音質に悪影響を与えうる電解コンデンサを排除し、すべてフィルムコンデンサを使用することで、信号の純度を保っている 8。さらに、システム全体がACラインから電気的に「浮いた(フロートした)」状態になるため、オーディオの天敵であるグランドループが根絶され、AC電源に起因するノイズから完全に解放される 8

バッテリーの充電サイクルは、Bluetooth経由で専用のBMS(Battery Management System)アプリから管理・設定できる 7。最高のパフォーマンスを得るためには、システムの電圧が特定の閾値(システム用バッテリーで14V、XDMI用バッテリーで12V)を下回った状態での使用は避けるべきである 16

3.2 XDMIインターフェース:DACへのダイレクトパス

Taiko Audioは、USBやAES/EBUといった従来のデジタルインターフェースを、パフォーマンスのボトルネックと見なしている。

これらのインターフェースは、レイテンシー(遅延)を発生させ、音質を劣化させる複数のデータ変換を必要とするためである 6

この問題に対するTaikoの回答が、XDMI(Extreme Direct Music Interface)である。これは、CPUから出力段まで、ダイレクトかつ超高速なデータパスを構築するためにゼロから設計された、独自のハードウェアおよびソフトウェアソリューションだ 2

XDMIは、PCIe 5.0バスをベースとしたシステムであり、ベースボード、特定の出力(AES/EBU、RCA、あるいはMSBやLampizatorといった特定DACへのダイレクトリンク)に対応する交換可能なドーターボード、そして外部I/Oボックスを接続するための独自のQSFP相互接続システムで構成される 8。このアーキテクチャにより、一般的なUSBインターフェースの250倍から2,000倍という驚異的なスループットを達成する 8

さらに革新的なのは、「クロックレス」設計という主張である。Taikoは、自社の技術 “Secret Taiko Solution” により、DACまでの経路に通常存在する4つのクロックが不要になるとしている。これにより、クロックが本質的に持つ音の色付けから解放されることを目指している 8

3.3 コンピュテーショナルコア:「反コンピュータ」的コンピュータ

Olympusが前モデルExtremeからいかに飛躍したかは、その計算処理能力の比較から明らかである。

表2: 技術仕様比較:Olympus vs. Extreme

機能Taiko SGM ExtremeTaiko Olympus
プロセッサ2x Intel Xeon Scalable (合計20物理コア)AMD Threadripper 24-core
メモリ48GB DDR4-240064GB DDR5
インターフェースPCIe Gen 3PCIe Gen 5
ストレージバスPCIe Gen 3 M.2PCIe Gen 5 MCIO U.2/U.3
OSWindows 10 (大幅に軽量化)Windows 11 IoT Enterprise LTSC (大幅に軽量化)

この圧倒的な計算能力は、高度なDSP処理のためではなく、むしろその逆の目的のためにある。ソフトウェア環境には、不要なサービスやプロセスを極限まで削ぎ落とした、特別仕様のWindows 11 IoT Enterprise LTSCが採用されている。Taikoの主張は、利便性よりも音質を優先し、Windowsをその核となる部分まで軽量化することで、最高の音質が達成できるというものだ 13。発売当初はRoonでの運用が基本となり、将来的には独自の再生ソフトウェアXDMSへの対応も計画されている 3

デジタル性能の新たな指標

Olympus のアーキテクチャ───とりわけ BPS と XDMI──は、デジタルオーディオで長らく重視されてきた「ジッター値(ps)」という単一指標から視線を外し、別の評価軸へ焦点を移す可能性を示している。

ここでまず確認しておきたいのは、我々がどの“ジッター”を語っているのかという点である。一般にカタログで示されやすいのは、SPDIF などの出力信号におけるインターフェース・ジッター、あるいは測定環境を厳密に整えた DAC 内部クロックの位相雑音スペクトルに由来するジッターだ。オーディオ用クロックメーカーが誇示する短期安定度や、近接位相雑音も、発振器単体の静的・周波数領域の性能を示す重要な数値である。しかし本稿が焦点を当てたいのは、CPU の処理負荷や電源ラインの揺らぎがクロック系へ回り込み、再生中に実際に生じる、より動的で複雑な位相揺らぎである。この領域には標準化された測定法が乏しく、固定条件での数値比較には向かない。言い換えれば、クロック単体がどれほど優秀でも、システム全体の負荷変動や電源ノイズが大きければ“実使用時”の揺らぎは増える可能性がある。Taiko が重視していると見られるのは、この「走行中の振る舞い」にあたる部分であり、クロックメーカーが示す“アイドリング時の静粛性”とは焦点が異なるが、無関係ではなくむしろ補完関係にある。

では何を手がかりにするのか。Taiko の設計思想やユーザー報告を突き合わせると、レイテンシー、そしてリアルタイムの消費電力挙動──とりわけ瞬時の負荷変動の小ささや安定性──が浮かび上がってくる。レイテンシーは単なる遅延量ではなく、処理の安定度やオーバーヘッドの少なさと表裏一体であり、消費電力は平均値よりむしろ瞬間的なスパイクや変動幅が重要だ。こうした瞬時変動は電源ラインにノイズを注入し、結果としてクロックの位相雑音を悪化させうる。したがってレイテンシーや消費電力挙動を“処理起因ノイズ”の代理指標として読む仮説がここで成り立つ。

この仮説を支えるロジックはそう難しくない。Taiko はジッターの絶対値を提示するよりも、音質に大きく効くと考えるレイテンシーの低減と負荷安定化に重きを置いているように見える。複数のユーザーは、再生中のシステム消費電力が低く、かつ変動が小さい状態で音質の向上を感じたと報告している。ジッターは電源ノイズや処理負荷の揺らぎがクロックへ回り込むことで増大する時間的エラーの一形態である以上、その根本要因を抑え込めば、結果としてジッターを十分低いレベルに押し下げられる可能性がある。ここでいう「ジッターが改善する」とは、従来カタログに載る ps 表記の値が劇的に変わるというより、実運用時に発生しうる動的な揺らぎが減る、という意味合いに近い。つまり、レイテンシーやノイズの削減で改善されるジッターは、一般的に公表される数値とは測定対象も解釈も異なる“別種のジッター”だと考えてよい。

この視点に立つと、BPS と XDMI の役割が鮮明になる。BPS(Battery Power Supply)は極めてクリーンで安定した電力を供給し、瞬時電流スパイクを平滑化することで電源ライン由来のノイズ注入を抑える。XDMI は広帯域でダイレクトなデータ経路を確保し、CPU の処理待ちやソフトウェアスタックのオーバーヘッドを最小化して、レイテンシーの均質化と処理負荷の平準化に寄与する。強力な CPU を採用している点と低ノイズ志向が矛盾するように見えるかもしれないが、計算余力を確保しつつ BPS が負荷変動を吸収してしまえば、結果として実質的な処理ノイズを抑え込むという整合が取れる。

最終的に導かれるのは、処理起因ノイズ(消費電力の瞬時変動などから推定できる成分)と処理レイテンシーを大幅に抑制すれば、重大なジッターを生む条件の一部は本質的に弱まり、ジッターそのものがシステム性能を規定する支配的な要因ではなくなる、という仮説である。ここで鍵となるのは、瞬時電力波形と位相雑音スペクトルの相関をどう測るか、レイテンシーの分布(最大・最小・標準偏差)をどう定量化して音質評価と結びつけるか、といった検証手法の確立だろう。インターフェース・ジッター値や DAC 内部ジッター値との関係を切り分ける作業も避けて通れない。

要するに、重要な問いは「ジッターは何ピコ秒か?」だけではない。「処理起因ノイズはどれだけ低く、どれほど安定しているか」「レイテンシーはどれほど均質化されているか」という視点が、今後のデジタルソース評価においてより意味を持つ可能性がある。評価の焦点が最終クロック段だけに留まらず、データ生成から転送までのパイプライン全体へと広がる──それが Olympus の提示するパラダイムシフトなのだ。

第4章:リスニングセッション:オリジナルイベントへの接近

音の個性:「デジタル」と「アナログ」を超えて

複数のレビューで語られるリスニングインプレッションを統合すると、一貫したテーマが浮かび上がる。それは、Olympusのサウンドが従来の記述子を超越しているという点である 4

  • 純度と透明性: そのサウンドは「一切の粒子感、滲み、歪みのない、超広帯域で非の打ちどころなく定義された周波数スペクトル」と表現される 8。ノイズフロアは感知できないレベルまで低下し、「信じられないほど透明な」デバイスとして機能する 12
  • 解像度と繊細さ: 「信じられないほどニュアンスに富み、顕微鏡的」でありながら、その表現は「流麗で、色彩豊か、繊細で、そして極めて音楽的」である 7。シェイカーの中の砂粒一つ一つが追跡できるかのような驚異的な解像度を持ちながら、分析的になったり、刺々しくなったりすることがない 7
  • ダイナミクスと制動力: 低域は「深く、コントロールされ、タイトで充実している」と評される 7。バッテリー電源は「いかなるリニア電源をも超える」ダイナミクスを提供する 8
  • リアリズムと実在感: 全体的な効果として、「録音エンジニアの真の意図」に一歩近づく感覚がある 1。それは「相互作用的で、触知可能な聴覚的・物理的雰囲気」を創り出し 8、音楽そのものからではなく、音の驚異的な分離とリアリティから「鳥肌が立つ」ほどの体験をもたらすことがある 7

実践における解像度のパラドックス

本機のXDMI内蔵DACでの試聴において、ファイル解像度と音質の間に存在するトレードオフは、最も興味深く、かつ示唆に富む発見であった。

標準的なCD品質のRedbook(16bit/44.1kHz)を再生した際の体験は、まさに「息をのむ」ようなものであり、これまでの常識を覆す「精神的な衝撃」であった 11。予想をはるかに超えるその音質は、アップサンプリングされた高解像度音源よりも優れているとさえ感じられた。

その一方で、DSD512のような超高解像度ファイルを再生すると、皮肉にも「最悪」の音質となることがあった。これは、高い処理負荷が消費電力を増大させ、結果として内部ノイズを増加させるためである 11

多くの録音において、最高の音質が得られる「スイートスポット」は、PCMでは1fs(44.1/48kHz)や2fs(88.2/96kHz)、DSDではDSD64といった、比較的低い解像度に存在した 11。これは、前述の「減算的」哲学、すなわち処理の「付加」がノイズの「付加」につながるという原則を、聴感上でも裏付ける結果となった。

※この現象はXDMIデジタル出力では発生しないという意見があり、内蔵DACチップの消費電力増加に起因する可能性が示唆されている。

最高のパフォーマンスを引き出すための最適化

Olympusの真価を完全に引き出すには、いくつかの注意深いセットアップが不可欠である。

  • 内蔵の音楽ストレージドライブを物理的に取り外し、ストリーミングサービスやNAS(Network Attached Storage)を使用することで、ドライブの定常的な電力消費がなくなり、音質が向上する 11
  • XDMI出力を利用する際には、USBケーブルを物理的に抜いておくだけで、聴感上の改善が認められる 11
  • Olympusはシステムの基準点を根本的に変えてしまうため、フットやケーブルといった既存のすべてのアクセサリーや調整は、先入観を捨ててゼロから再評価する必要がある 24

第5章:頂上からの眺め:比較分析

序論

この価格帯の製品を検討するにあたり、トップコンテンダーたちの「個性」を理解することは極めて重要である。絶対的な「最高」が存在するわけではなく、システムとの相性や個人の嗜好が最終的な判断を左右するからだ。このセクションでは、ユーザーやレビューワーによる比較を統合し、Olympusの立ち位置を明らかにする。

表3: 主要サーバーの音質的特徴の比較

サーバー主な音質的特徴出典
Taiko Olympus純度、透明性、極限の解像度、広大なサウンドステージ、消失点のようなノイズフロア。「デジタル」でも「アナログ」でもなく「リアル」。録音エンジニアの意図に近い。1
Taiko Extreme(Olympusの基準点)パワフル、ダイナミック、ディテール豊か。Olympusに比べると完全性や透明性で劣る。1
Aurender W20SEスムーズ、洗練されている、流麗、優れた音色のしなやかさ。「LPのような柔らかい音」で「フィネス」と「アンビエンス」を持つ。競合に比べダイナミックさに欠ける場合がある。26
Innuos Statementオーガニック、スムーズ、「アナログライク」。より「デジタル臭」が少ない。Taikoの持つ臨床的な正確さと、他の製品の持つ暖かさの中間に位置する。31
Wadax Atlantis Ref.ナチュラル、ダイナミック、「生命感がある」。暖かく、アナログ的で、「ブーミングな低音」を持つ。最高のビニール再生に匹敵する、デジタル再生の可能性を根本から変えたと評される。34

詳細比較

  • Olympus vs. Extreme: OlympusはExtremeからの漸進的な改善ではなく、根本的な飛躍である。あるユーザーは、Extremeを「100%」とするならば、Olympusは「約300%」のパフォーマンスを持つと評価している 1。透明性、サウンドステージ、リアリズムといった、考えうるすべての領域において、トレードオフなしに優れている 4
  • Extreme vs. Aurender W20SE: 韓国で行われたグループ試聴では、Taiko ExtremeがAurender W20SEに対して、「ほぼすべての部分で」、特に音楽的なニュアンス、立体感、奥行きの表現で優れていると結論付けられた 26。W20SEはよりスムーズでLPレコードのようなサウンドキャラクターを持つと評される一方 27、Taikoはより透明でディテール志向と見なされている。
  • Extreme vs. Innuos Statement: ユーザーはStatementを非常に「オーガニック」で「アナログライク」と表現している 32。両者を聴いたあるユーザーは、Taiko ExtremeがStatementに対して「全く異なるリスニング体験」をもたらし、両者の間には「大きなギャップ」が存在すると述べた 31。別のユーザーは、Taikoを「臨床的で正確」、Innuosを「その中間」と特徴づけている 33
  • Extreme vs. Wadax Atlantis Reference: これはまさに巨人同士の戦いである。両者ともに、デジタルオーディオを再定義する存在と見なされている 34。あるユーザーによる比較では、Wadaxが「暖かく、アナログ的で、ブーミングな低音」を持つ一方、Taikoは「透明性、広がり、暗い背景、ディテールと余韻」で優位性を示したという 37。興味深いことに、最高の音質は両者を組み合わせることで得られたという報告もある。具体的には、WadaxをRoon Coreとして、TaikoをRenderer/Endpointとして使用した場合であり、これは両者が処理チェーンの異なる部分で異なる強みを持つ可能性を示唆している 37

第6章:統合と結論:デジタルソースの再定義

懐疑論に応える

「ビットはビットである」という議論や、6桁の価格を持つデジタルソースを取り巻く論争を無視することはできない 4。Olympusは、この懐疑論に対して、その徹底したエンジニアリングをもって応える。その核心的な主張は、デジタルオーディオが本質的にアナログ領域の問題、すなわちノイズ、振動、タイミングの不安定性に対して極めて脆弱であり、これらの問題を解決するためには、コストを度外視した極限のエンジニアリングが必要であるというものだ。複数の情報源が示すように、その結果として得られる聴感上の改善は、微細なものではなく、変革的なものである 8

パラダイムシフトとしてのOlympus

Olympusは、その包括的な「減算的」哲学と、BPSおよびXDMIという革新的な技術を通じて、単なる新しいフラッグシップ製品以上のものを提示している。それは、デジタルオーディオ設計に関する根本的な前提に挑戦するものである。評価の焦点を、DACにおけるジッター低減から、チェーン全体にわたるノイズ除去へとシフトさせ、性能評価のための新たな指標(消費電力、レイテンシー)を提案している。

最終的な評決

Taiko Audio Olympusは、デジタルオーディオエンジニアリングにおける記念碑的な達成である。その価格は、ごく一部の限られたオーディオファイルにしか手の届かない、最も希薄な領域に位置する。しかし、そのポテンシャルを解き放つことができるシステムを構築する手段と情熱を持つ者にとって、Olympusは、おそらくこれまでのいかなるデジタルソースよりも、「改変されざるビット」、そしてオリジナルパフォーマンスの魂に近づくリスニング体験を提供する。それは、完璧性の追求においては些細なディテールなど存在せず、いかなる妥協も許されないという思想の、力強い証なのである。

引用文献

1. Introducing Olympus & Olympus I/O - A new perspective on modern music playback - What’s Best Forum, https://www.whatsbestforum.com/threads/introducing-olympus-olympus-i-o-a-new-perspective-on-modern-music-playback.37939/

2. Olympus & Olympus I/O Introduction and FAQ - Taiko Audio, https://taikoaudio.com/taiko-2020/wp-content/uploads/2024/10/Olympus-and-Olympus-IO-Introduction-FAQ_v034.x80569.pdf

3. Introducing Olympus & Olympus I/O - A new perspective on modern music playback | What’s Best Audio and Video Forum. The Best High End Audio Forum on the planet!, https://www.whatsbestforum.com/threads/introducing-olympus-olympus-i-o-a-new-perspective-on-modern-music-playback.37939/post-1028659

4. Taiko Olympus - New top model from Taiko - Audio Systems - dCS Community, https://dcs.community/t/taiko-olympus-new-top-model-from-taiko/6079

5. Introducing Olympus & Olympus I/O - A new perspective on modern music playback | What’s Best Audio and Video Forum. The Best High End Audio Forum on the planet!, https://www.whatsbestforum.com/threads/introducing-olympus-olympus-i-o-a-new-perspective-on-modern-music-playback.37939/page-181

6. Introducing Olympus & Olympus I/O - A new perspective on modern music playback, https://www.whatsbestforum.com/goto/post?id=935297

7. TAIKO Olympus XDMI System - Audiodrom, https://www.audiodrom.net/en/special-edition-reviews/189-taiko-olympus-server-olympus-i-o-xdmi-system

8. Taiko Audio Olympus Music Server And I/O Review – M & S | Ultimate High-Fidelity, https://www.monoandstereo.com/taiko-audio-olympus-music-server-and-i-o-review/

9. Customer pricelist 2024 | Taiko Audio, https://taikoaudio.com/taiko-2020/wp-content/uploads/2024/10/Pricelist-Customers-2024.x80569.pdf

10. Taiko - Amadeus Audio, https://amadeusaudio.nl/brands/taiko/taiko/

11. Reality Quest: Review of the Taiko Audio Olympus Music Server (Part 2 of 2), https://audiophilestyle.com/ca/reviews/reality-quest-review-of-the-taiko-audio-olympus-music-server-part-2-of-2-r1306/

12. REVIEW: TAIKO AUDIO Olympus Server XDMI + Olympus I/O XDMI audio file server/transport » THE NETHERLANDS - High Fidelity, https://highfidelity.pl/@main-1468&lang=en

13. Audiodrom Review of the Taiko Audio Extreme Music Server – 100% Reference!, https://taikoaudio.com/taiko-2020/news/audiodrom-review-of-the-taiko-audio-extreme-music-server-100-reference/

14. Taiko Olympus (with XDMI analog out DAC c… For Sale - Audiogon, https://www.audiogon.com/listings/lisbcdbe-taiko-olympus-brand-new-unopened-10k-off-absolute-state-of-the-art-da-converters

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16. Olympus Server and I/O Quick Start Guide | Taiko Audio, https://taikoaudio.com/taiko-2020/wp-content/uploads/2024/12/Olympus-Quick-Start-Guide_v4_hi-res.x80569.pdf

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18. Introducing Olympus & Olympus I/O - A new perspective on modern music playback | What’s Best Audio and Video Forum. The Best High End Audio Forum on the planet!, https://www.whatsbestforum.com/threads/introducing-olympus-olympus-i-o-a-new-perspective-on-modern-music-playback.37939/page-4

19. Taiko Audio Olympus Music Server Olympus I… For Sale - Audiogon, https://www.audiogon.com/listings/lisbf1jc-taiko-audio-olympus-music-server-digital

20. Look Under the Hood - World Debut of Taiko Olympus Server - YouTube, https://www.youtube.com/watch?v=gdSRZ5_sX2Q

21. Introducing Olympus & Olympus I/O - A new perspective on modern music playback | What’s Best Audio and Video Forum. The Best High End Audio Forum on the planet!, https://www.whatsbestforum.com/threads/introducing-olympus-olympus-i-o-a-new-perspective-on-modern-music-playback.37939/page-52

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23. Introducing Olympus & Olympus I/O - A new perspective on modern music playback | What’s Best Audio and Video Forum. The Best High End Audio Forum on the planet!, https://www.whatsbestforum.com/threads/introducing-olympus-olympus-i-o-a-new-perspective-on-modern-music-playback.37939/page-38

24. Taiko Olympus A/B Comparison - What’s Best Forum, https://www.whatsbestforum.com/threads/taiko-olympus-a-b-comparison.40016/page-2

25. Taiko Audio Extreme receives TAS 2022 Golden Ear Award, https://taikoaudio.com/taiko-2020/reviews/taiko-audio-extreme-receives-tas-2022-golden-ear-award/

26. Taiko Audio SGM Extreme : the Crème de la Crème | What’s Best Audio and Video Forum. The Best High End Audio Forum on the planet!, https://www.whatsbestforum.com/threads/taiko-audio-sgm-extreme-the-cr%C3%A8me-de-la-cr%C3%A8me.27433/page-60

27. Aurender n30 vs w20se - Audio Systems - dCS Community, https://dcs.community/t/aurender-n30-vs-w20se/7595

28. Taiko Extreme Review | AudioShark Forums, https://www.audioshark.org/threads/taiko-extreme-review.20731/

29. W20SE vs N30? | AudioShark Forums - High End Audio, Stereo and Home Theater Systems Discussions, https://www.audioshark.org/threads/w20se-vs-n30.20484/

30. Aurender W20SE Music Server - The Absolute Sound, https://www.theabsolutesound.com/articles/aurender-w20se-music-server/

31. Innuos + Dave vs Innuos + ND555 - Page 4 - Hi-Fi Corner - Naim Audio - Community, https://community.naimaudio.com/t/innuos-dave-vs-innuos-nd555/22982?page=4

32. Anyone Listen to the Taiko Extreme Server and Go With Something Else? Anyone Make a Change from Taiko? - What’s Best Forum, https://www.whatsbestforum.com/threads/anyone-listen-to-the-taiko-extreme-server-and-go-with-something-else-anyone-make-a-change-from-taiko.35160/

33. Setting up Roon on Multiple Servers for Multi-room Audio Listening (ref#OGXF3V), https://community.roonlabs.com/t/setting-up-roon-on-multiple-servers-for-multi-room-audio-listening-ref-ogxf3v/272750

34. Wadax Atlantis Reference - Lotus Hifi, https://www.lotushifi.co.uk/the-wadax-atlantis-reference/

35. Wadax Atlantis Reference Music Server - The Absolute Sound, https://www.theabsolutesound.com/articles/wadax-atlantis-reference-music-server/

36. DOES ANYONE REGRET BUYING A TAIKO EXTREME SERVER? ANYTHING BETTER?, https://www.whatsbestforum.com/threads/does-anyone-regret-buying-a-taiko-extreme-server-anything-better.32229/page-4

37. Sitting Taiko SGM extreme with Wadax Atlantis Server - What’s Best Forum, https://www.whatsbestforum.com/threads/sitting-taiko-sgm-extreme-with-wadax-atlantis-server.34162/

38. dCS new flagship - What’s Best Forum, https://www.whatsbestforum.com/threads/dcs-new-flagship.39192/page-3

39. Wadax Atlantis Reference Digital-to-Analog Converter - The Audio Beat, https://www.theaudiobeat.com/equipment/wadax_atlantis_reference.htm